今回も「World Jump Rope 2014のこと」。
それから、まっちゃんこと粕尾将一さんのメッセージも合わせて書きたい。
World Jump Rope 2014最終日は、配信の不調もなく(笑)、生山さん、渡邊さん、黒野さんの姿をようやく見ることができた。さすがの成績を残して、フィナーレを迎えられたみたいだ。世界で跳ぼうと思った過去の自分に、笑顔で手を振れる終わり方でありますように。
そんな中、粕尾さんのブログで、ある決断が語られていた。
シルクドソレイユの中で5年間追い続けた『夢』を諦めることにした - なわとび1本で何でもできるのだ
花形キャラクターである「レコン」を目指し、諦めるまでの数年の記録。今回語られた「自分の努力だけじゃどうにも覆しきれない現実と条件」に、残念ながら納得できた。
粕尾さんは、これまでのブログで、自分より技術のあるアクターがたくさんいることを書いてきた。一方で、なわとび専門のアクターであることのプライドも書かれていた。
今回、突然わいた話ではない。これまでも現実を受け止めてきた人の、決断なのだ。ご本人がわかっているからこそ、あの話には重みがある。諦めることを、人に向けての言葉にして決着させるのは、苦しかったと思う。
World Jump Rope 2014最終日は、そんな話を読んでから、ライブを見始めた。
ヒジキさんとSADAさんの2重跳び、黒野さんの3分スピード。ダブルダッチのスピードリレー。日本勢は皆、いい数字を残していく。
そして、大一番のフリースタイル。上位者のみが出場できる、決勝戦的な枠だったらしい。今回は、音楽あり、フロア全面で1人ずつだった。
目を疑うような技がいくつも披露される。半分以上の選手が宙返りを入れ、水平方向に空中回転する技(実況がバタフライと言っていたような)まで何人も跳んでみせる。ラップ(巻きつけるほう)もリリースをからめて複雑だし、とにかく技と技のつなぎが予測を超えて続く。何しろ、実況すら驚いているのだ(笑)。もうそれだけで、客観的にもすごい技ばかりだったとわかる。
驚き続けているうちに、粕尾さんが受け止めた「現実」の1つがわかった気がした。
筋肉をバネにまで鍛えたかのような身体能力。そこから繰り出されるアクロバット。
追いつけない、届かない、途方もない壁がそこにあった。僕も跳ぶ側だから、それらを跳ぼうとしたらどれだけ身体能力が必要なのかわかるし、見る側としていろんな人の動画を見比べているから、上級者の中でも、さらにすごいのがわかる。
「すごい」ということの裏には、半端じゃない経験や才能が、イメージとして見える。
努力した人ほど、自分を比較して、並び立てるかどうかがわかるのだろう。
おそらく、これよりすごいアクロバットを、粕尾さんはシルクドソレイユで見続けてきたのだ。常に高い壁を見上げているって、どんな気持ちなのだろう。
そんな怖いほどの迫力の中で、「HIRO KURONO」こと黒野寛馬さんの出番が来た。
黒野さんは、あの雰囲気に独自の力で切り込んだと思う。
実況は、始めから「HIRO!」「SAMURAI Soul」となんだかテンションが違っていた。勝ち上がってきた日本人、という称賛もあったのだろうか。そんな中、背中でグリップを縄にはさむ巻き付け方をしてスタンバイする黒野さん。実況も、なんだあれは?みたいな調子で注目する。
そして始まった黒野さんのフリースタイル。複雑なラップ、足でのリリース(?)、宙返り。けして、アクロバット的には他の選手より群を抜いていたわけではない。
でも、実況の反応が、明らかに違っていた。おもしろい、楽しい、といった感じで、実況が笑って喜んでいる。笑っていた理由は別にあったのかもしれないが、実況は楽しそうに演技を見ていた。
黒野さんの演技は、音楽に切り替えをつけて、そこでいったんポーズを決めてみたり、変わった巻き付け方をしてみたり、独自の見せ場があった。アクロバットよりも、技術や演出を重視したフリースタイルだったように思う。
演技が終わると短く一礼して退場していく他国の選手に対して、黒野さんの一礼は深く、歯を見せながらの渾身の笑顔とガッツポーズが印象的だった。
その、見せたいものを見せきった!みたいな充実した表情を見たとき、アクロバットが飛び交う中でも存在を示せるのだと気づいた。
他にも好印象の選手はたくさんいたけれど、見ている側がうれしくなるような姿を、「HIRO」は残していったのだ。
粕尾さんの夢の話に戻る。
レコンは諦めたけれど、違う形で目指すものはあると、粕尾さんは書いた。まだぼんやりとだけ予告された「なわとびアーティスト」という言葉。
アクロバットのプロたちの中で、自分だけが演じられるもの。
黒野さんが「HIRO」として、あの大会で残した印象の中に、その答えの一部があるんじゃないだろうか。演技後のあの笑顔は、自信を持ってその道に向き合える証だと思った。
評論家のようにあれこれ書いてしまったけれど、見る側として、これからのなわとびに期待のふくらんだ大会だった。
アマチュアの僕はこんな感想だったわけだが、書いている間に、粕尾さんが熱の入った記事を更新されていた。
これからの競技スポーツに求められる『観るコンテンツ』としての価値 - なわとび1本で何でもできるのだ
競技なわとびをどう見せていくか。採点の壁はあるかもしれないが、それを乗り越えた姿が作られていってほしいと思う。
ある選手の演技で、実況が言っていた。
He likes this sports very much.
好きだから跳べる。この言葉をみんな持っている。
僕も、次に跳ぶときが楽しみだ。