■ 跳べた子が飛び立った日
今回は「2重交差のこと」。
「2重交差、続かないんだけど~(笑)」
なわとびの得意な6年生の子が、困り笑いしながら、たまに目の前で2重交差を跳びはじめます。そして、だいたい決まって3回目で引っかかる。「ほらー」とか「なんでー」とお約束のように口にして、さあアドバイスを! と視線で訴えてくるのがいつものパターン。
3重とびも1回は跳べる子で、はっきり言って速く回すのはうまい。2重交差も跳びはじめはよく回ってるし、着地も沈みこんでない。ただ、2回目、3回目と縄が弱まるのです。
「上まで大きく回して見なよ」
僕自身が回して見せながら、こんなアドバイスをしてます(ほんとは語尾が方言です)。
これが的確なアドバイスなのかはわかりません。どちらかというと自分の経験則で、下に強く回す意識が強くて頭上の回旋が弱いと、縄の張りをつかみづらくなるから ―― というのが理由。上から振りおろせない縄は、足の下へ回すのも難しいのです。
その子の縄が弱まる(=回しきれなくなる)様子を見て、最近、実演まじりでこう伝えることが増えました。ただ、僕自身はこれで3重あやや4重とびがすこし進歩したものの、その子が同じようにうまくいくとはかぎりませんでした。
ところが、今回はそれで3回の壁を突破したのです。
4回目を回しはじめたときの、私跳んでる? とでも言いだしそうな表情が忘れられません。半笑いと言うにはわきあがるものに満ちていて、でも、集中してるからそれ以上喜びを出せないようなバランスの笑顔。
そばで「大きく回して!」とか、回数をかけ声にタイミングを合わせたのもよかったのかもしれません。結果、何回だったかな。自己新って、初めての1回、続けての2回までは強引にできても、その次からがなかなか伸びないんです。そこを越えた瞬間でした。
―― さっきの、巣立ちだったな。
あとからそんなふうに思ったのは、2重交差が通称「つばめ」と呼ばれるからでしょう。
表題は、以前も2回使ったタイトルです。
そのときは、中学生になってもなわとびを続けていられるのか? どう助けてあげられるのか? というお話でした。今回は技としての「つばめ」話でしたが、やっぱり、跳べるようになると、「巣立ち」が聞こえてきますね。今回は運よくアドバイスもうまくいったのもあって、押した背中が手から離れるときの感覚のような、ちょっとしたさびしさもありました。
この子も6年生で、もうすぐ卒業です。
そういう意味でも巣立ちは近い。たぶん、今の学校に来てから、いっしょになわとびした時間が一番長い子です。クラブも2回入ってくれました。
この子にとってなわとびは、中学生から先、どんなものになるんでしょうか。しだいに忘れることになっても、いつか、彼女自身が子どもに教える場面ができたとき、「跳び」立てた喜びを伝えてくれていたらいいな、と思います。