■ 演技者がヒーローなら……
今回は「ヒーローのこと」。
―― ヒーローじゃなくて、ナイトだったのかもしれない。
初の男の子プリキュアを見て。
10年単縄を続けたのは、ヒーローへのあこがれがあったからです。演技に使う曲も、かっこいいと思ったゲーム音楽で固めていました。年に1、2回、人前でなわとび演技させてもらって数年。できはあまりよくありませんでしたが、2分間のヒーローをめざして、挑戦していた時期がありました。
今も音楽に合わせて跳ぶことはあります。特殊交差系がきつくなってきて、すこし単調な動きになった気はしますが、それでもリリースや回転移動を使って、まだヒーロー気分を味わいたい自分がいます。
そんな中、『ひろがるスカイ!プリキュア』で放映前から話題になっていた、「メインメンバーで初めての男の子プリキュア」が生まれた第9話を見ました。
実は、ちょっと不安がありました。
「シリーズ20周年の挑戦」のようなふれこみで話題になる中、期待に応(こた)えて登場できるのか。いや、自分の中では期待でいっぱいだったんですよ。第8話で次回に続く展開になって、予告でその姿を見ただけで、どんな話が待ってるんだろうと。
ただ、縄の回しかたと同じで、挑戦は力のかけかたによっては空振りになることもあります。有名な作品なだけに、世間の目だってある。それが怖かった。
「もし、ボクに最期が訪れたとして、
そのときに思い出すのは、ボクを笑った人たちの顔じゃないプリンセス、ボクを守ろうとしてくれた、あなたの顔です」
自分を必死で守ってくれた赤ん坊のお姫様。その呼び名を「エルちゃん」から「プリンセス」に改めて決意を固めたシーンで、抱えていた不安は、こらえきれなかった涙といっしょにこぼれ落ちました。
わがままな言いかたになりますが、応えてもらえた、という気持ちでいっぱいでした。
この話で書いた、前作の男の子ヒーローだったブラックペッパーに感じていた姿を、どこかで待っていたんです。なわとびで、自分がカッコいいヒーローにはなれなかったから。支える、そして、守る役目もまたヒーロー。救ってくれた人を、今度は自分が守る。「ナイト」として――。
彼が信じたヒーローの形は、奥ゆかしいほどに誠実で、だからこそ、勇気をくれる姿でした。
ヒーローとナイト。
なわとびだと、競技にしても演技にしても、見る人にあこがれを持たせる演技者の姿がヒーローだと、今でも思っています。上の 681 でもふれたんですけど、ヒーローって強いだけの存在じゃありません。ただ強さを追い求めたり、自慢したりするだけなら、『ひろプリ』のカバトンや、『ハトプリ』のクモジャキーみたいな悪役になりかねないし、自己満足なヒーローでしかありません。
ナイトとなって守るだけでも、救われる人はいます。
なわとびなら、跳べない人に期待を持たせること。跳べない時間は、自分を追いつめる時間です。ときに人に笑われる恐れだって秘めていて、心があきらめに傾いても不思議ではありません。
教えることができれば、つぶされそうな気持ちからその人を守れる。僕は、けっして上手なジャンパーじゃありません。それでも、児童館や学校では、子どもが期待をこめた目で近づいてきてくれました。応えたい、という気持ちにさせてくれました。
ヒーローらしいヒーローとはすこし違うかもしれません。いつもそういう姿勢でいられる自信だってありません。それでも、同じように勇気を与える存在になれるなら、ツバサくんのように、ナイトとして立つことも、大切なのだと思います。
毎回、プリキュアになわとびを合わせて描いてしまうんですが、今回は空を飛べない子のエピソードでした。「とぶ」という響きが、すこし他人事(ひとごと)には思えなくて、そういう意味でも、心に残るお話でした。
長くなってごめんなさい、残りはプリキュアの余談です。
数作シリーズを見てきて、何を今さら、な話ではあるんですけど、『プリキュア』を見てることに、肩身のせまさはあります。「男が」「大人が」のような引け目は、今ではかえって気にしすぎな空気があるものの、静かに自分を縛っている鎖(くさり)です。
男の子プリキュアが生まれるって、そんな『プリキュア』への向き合いかたと重なるものがありました。序盤に書いた「怖かった」には、無理に気にしなくてもいい引け目を、今一度覗(のぞ)きこまれるような不安もあったのです。
プリンセス・エル
あなたのナイトがまいります!
そこでツバサくんが見せた、「ナイト」として口調を改めた姿。救われたように涙がこぼれました。引け目があっても、誠実に向き合うことが1つの答えだと感じたからです。
「姫と騎士」はいくつかありそうなステレオタイプだったかもしれません。それを素直に、そのままの立ち位置で描いたストーリー。他の2人(もしかしたら3人)のプリキュアがあきらめずに挑む姿が、誕生直前のキュアウィングを守った流れの一体感。
ツバサくんが男の子プリキュアとしてはばたくまでのシーンは、僕の縮こまっていた気持ちも守ってもらえたような、忘れられない時間でした。