とびまるの「なわとびのこと」

なわとびのことを書いたり描いたりするブログ。

692 ナイト

■ 演技者がヒーローなら……

今回は「ヒーローのこと」。

 ―― ヒーローじゃなくて、ナイトだったのかもしれない。

初の男の子プリキュアを見て。

10年単縄を続けたのは、ヒーローへのあこがれがあったからです。演技に使う曲も、かっこいいと思ったゲーム音楽で固めていました。年に1、2回、人前でなわとび演技させてもらって数年。できはあまりよくありませんでしたが、2分間のヒーローをめざして、挑戦していた時期がありました。

今も音楽に合わせて跳ぶことはあります。特殊交差系がきつくなってきて、すこし単調な動きになった気はしますが、それでもリリースや回転移動を使って、まだヒーロー気分を味わいたい自分がいます。

そんな中、『ひろがるスカイ!プリキュア』で放映前から話題になっていた、「メインメンバーで初めての男の子プリキュア」が生まれた第9話を見ました。


実は、ちょっと不安がありました。

「シリーズ20周年の挑戦」のようなふれこみで話題になる中、期待に応(こた)えて登場できるのか。いや、自分の中では期待でいっぱいだったんですよ。第8話で次回に続く展開になって、予告でその姿を見ただけで、どんな話が待ってるんだろうと。

ただ、縄の回しかたと同じで、挑戦は力のかけかたによっては空振りになることもあります。有名な作品なだけに、世間の目だってある。それが怖かった。

「もし、ボクに最期が訪れたとして、
 そのときに思い出すのは、ボクを笑った人たちの顔じゃない

 プリンセス、ボクを守ろうとしてくれた、あなたの顔です」


自分を必死で守ってくれた赤ん坊のお姫様。その呼び名を「エルちゃん」から「プリンセス」に改めて決意を固めたシーンで、抱えていた不安は、こらえきれなかった涙といっしょにこぼれ落ちました。

わがままな言いかたになりますが、応えてもらえた、という気持ちでいっぱいでした。


この話で書いた、前作の男の子ヒーローだったブラックペッパーに感じていた姿を、どこかで待っていたんです。なわとびで、自分がカッコいいヒーローにはなれなかったから。支える、そして、守る役目もまたヒーロー。救ってくれた人を、今度は自分が守る。「ナイト」として――。

彼が信じたヒーローの形は、奥ゆかしいほどに誠実で、だからこそ、勇気をくれる姿でした。


ヒーローとナイト。

なわとびだと、競技にしても演技にしても、見る人にあこがれを持たせる演技者の姿がヒーローだと、今でも思っています。上の 681 でもふれたんですけど、ヒーローって強いだけの存在じゃありません。ただ強さを追い求めたり、自慢したりするだけなら、『ひろプリ』のカバトンや、『ハトプリ』のクモジャキーみたいな悪役になりかねないし、自己満足なヒーローでしかありません。

ナイトとなって守るだけでも、救われる人はいます。

なわとびなら、跳べない人に期待を持たせること。跳べない時間は、自分を追いつめる時間です。ときに人に笑われる恐れだって秘めていて、心があきらめに傾いても不思議ではありません。

教えることができれば、つぶされそうな気持ちからその人を守れる。僕は、けっして上手なジャンパーじゃありません。それでも、児童館や学校では、子どもが期待をこめた目で近づいてきてくれました。応えたい、という気持ちにさせてくれました。

ヒーローらしいヒーローとはすこし違うかもしれません。いつもそういう姿勢でいられる自信だってありません。それでも、同じように勇気を与える存在になれるなら、ツバサくんのように、ナイトとして立つことも、大切なのだと思います。

 

イラスト:大空で、キュアウィングが片手を伸ばす先で、プリンセスのエルちゃんが縄を持ってうれしそうに空中に浮かんでいる。翼のような光が背中に見える。まるで、姫を称える騎士のよう。

翼の騎士とお姫様

毎回、プリキュアになわとびを合わせて描いてしまうんですが、今回は空を飛べない子のエピソードでした。「とぶ」という響きが、すこし他人事(ひとごと)には思えなくて、そういう意味でも、心に残るお話でした。


長くなってごめんなさい、残りはプリキュアの余談です。

数作シリーズを見てきて、何を今さら、な話ではあるんですけど、『プリキュア』を見てることに、肩身のせまさはあります。「男が」「大人が」のような引け目は、今ではかえって気にしすぎな空気があるものの、静かに自分を縛っている鎖(くさり)です。

男の子プリキュアが生まれるって、そんな『プリキュア』への向き合いかたと重なるものがありました。序盤に書いた「怖かった」には、無理に気にしなくてもいい引け目を、今一度覗(のぞ)きこまれるような不安もあったのです。

プリンセス・エル

あなたのナイトがまいります!


そこでツバサくんが見せた、「ナイト」として口調を改めた姿。救われたように涙がこぼれました。引け目があっても、誠実に向き合うことが1つの答えだと感じたからです。

「姫と騎士」はいくつかありそうなステレオタイプだったかもしれません。それを素直に、そのままの立ち位置で描いたストーリー。他の2人(もしかしたら3人)のプリキュアがあきらめずに挑む姿が、誕生直前のキュアウィングを守った流れの一体感。

ツバサくんが男の子プリキュアとしてはばたくまでのシーンは、僕の縮こまっていた気持ちも守ってもらえたような、忘れられない時間でした。