とびまるの「なわとびのこと」

なわとびのことを書いたり描いたりするブログ。

755 金髪と異世界

■ 演技を誰よりも見ているのは

今回は「居場所のこと」。

すこし前、すっと溶けていくようなコラムを読みました。

数日前に髪色は元に戻した。まるで自分じゃないようでうれしかった金髪だが、もはや自分じゃない気もしたから。(タレント・須田亜香里さん)

  ―― 中日新聞 2024.1.14 てくてく歩いてく 「金髪に染めて」


さりげない語り口が好きで毎週読んでます。アイドルグループのSKE48のメンバーだったそうです。そんなかたが、ちょっとのあいだ金髪にしてみたのをコラムの1話にしたときの言葉でした。

わかるなあ、と思ったのは、昔、なわとびでイベントに参加してみて、演技もさせてもらって、だんだんと足が遠のいた思い出があるからです。


「自分じゃない」

須田さんは上の一文で2回書かれてます。最初は自分からの変身だったのが、時間がたって変容に近い感覚になっていたような書きぶりです。

見た目を変えるって、不思議な話なんですよね。人は人生の大半を自分の姿を見ずに過ごします。特に顔。鏡やガラスに映さなければ、新しい自分の姿は目に入りません。それなのに、世界が変わった気持ちにすらなる。

世界の中で自分がどんな姿でいるのかを、いつも想像しているのでしょう。まるで映画の主人公のように、ちょっとだけ銀幕の中の映りこみを見ている。それでいて、人目を気にしたり、写真に撮られた姿を見たりして、そんな自分の居場所を見直すのです。

僕の場合、どちらかというと、とにかく演技でミスってばかりで、イベントから距離を置いたのはそうして自信を失ったのが大きいです。運営だけでも、とお誘いはあったんですが、そこまでしてイベントに関わるほどのやる気は生まれませんでした。演技を見せられなければ出向く意欲がないなんてわがままですが、跳べない気持ちに耐えながらただ手伝うだけなら、居場所にはできなかったでしょう。


ただ、すこし違う感覚もあったような気がします。

上のコラムと近い時期に、読んでる雑誌で連載している異世界もののせりふが目にとまりました。

「魔力も弱く よく知る人も場所もなく 知らない文化に囲まれたまったく違う環境

 それらに慣れることはできるかもしれませんが しかし 心のどこかで 『ここではない』 『ここにいてはいけない』 という声が聞こえる気がするのです」

  ―― 芳賀概夢・原作、灯まりも・漫画 『異世界車中泊物語 アウトランナーPHEV』 第19話「お出かけの日」(講談社


異世界でその身をねらわれている年端もいかないお姫さまが、平和なこちらの世界で過ごすうちに、自分に言い聞かせるように口にした言葉です。この子の覚悟に比べたら、自分がイベントに感じた「ここではない」感なんて実力不足からの現実でしかないんですが、そもそもイベントやステージは、見る側としては行った記憶がゼロに近い、ほとんど縁のない世界でした。

あこがれ以前に、イベントは自分にとって「慣れること」もできない世界だったのかもしれません。跳べない自分が常にちらついていただけで、もしうまく跳べていたのなら、そこで満足して終わっていたのかな、とも思います。


違う自分を、みなさんは、どう自分で受け止めているのでしょう。

そんな自分をカッコいいと自信をもって言える人は、堂々と変われる人なのでしょうね。気おくれしたり、尊大だと思ったり、どこかで自分にマイナスな姿を見てしまうと、「自分じゃない」「ここにいてはいけない」と思ってしまうのかもしれません。

異世界というと、僕は『大長編ドラえもん』のイメージです。日常のドタバタから、映画で大冒険に変わる世界。たとえば『のび太の宇宙開拓史』で、のび太くんは重力の小さな星で「スーパーマン」になります。変身できるのです。でも、その特別さはコーヤコーヤ星にいるときだけのもの。地球の町ではドジでダメな自分から逃げるように、のび太がコーヤコーヤ星へ向かうシーンも、あの作品では描かれていました。

まずはやってみる、はあっていいと思います。

僕もそうでした。そこから、どのステージまで上がっていくか。進もうとしている先は、本当に自分が自分で居場所と思えるところでしょうか? 変身したい自分が目立ちたいと思ってるだけの、わがままな居場所じゃないのか。

今はまだ振りきって跳んでいられます。学校だとミニ演技で喜んでもらえることが大半。それでも、自分の演技を誰よりも見ているのは、内なる自分なのかもしれません。

イラスト:ファンタジー風の絵。背景は濃い目の鉛筆書きで、丘の上の小さな広場。右にEBトードを跳ぶ女の子。左に見よう見まねで足を上げて縄が横にそれているエルフ風の男の子。2人の上に、丸っこくて翼と小さな足としっぽの生えた生き物が飛んでいる。後ろに丸みのあるやわらかそうな小屋、木、なだらかな坂の向こうに平原、山々と、雲を生む火山。

縄好きの子は異世界でも・・・

イメージで描いたら不思議な絵になってしまいました。真ん中で飛んでるのは、子どものころ描いたことのある生き物です。名前はトビマルでした。