■ 手段がそっと見えてしまうと
今回は「やりかたのこと」。
―― もうちょっと違うやりかたがあるんじゃないか。
昔に比べると、こう思うことが増えました。増えたというより、言葉でそう思うようになったというのが正しいです。
ただ、ネット社会でいろんな話やコメントを目にすることが増えて、言いかたややりかたで台なしになっている場面に、実際に出くわすことも増えました。昔だと、文章にしても映像にしても、世に出るものは編集や校正によっていくらかオブラートに包まれていた気がします。今は、一般の人がむき出しで放り投げるのを止められないシステムなのでしょう。
そんなことを思いかえしたのは、今年も見てみたプリキュアの感謝祭の配信で、特別ショーのテーマに感じた部分があったからです。
「ヒーローが存在するために生まれた悪」
最終回後のアナザーストーリーのような舞台での話。ヒーロー論はよく知らないんですけど、こういう考えかたもあるんだなと思いつつ、引っかかるものがあったんですよね。そのうち気づいたんです。ああ、他人を下げて自分を上げるタイプの正義にも通じてるな、と。
悪を作ってヒーローの顔をするような状況でしょうか。変に煽（あお）るような見出しの記事や広告もそうですね。「こうなりたくないでしょう？」と持ちかけて、おいでおいでするような。
何かを主張したり、売りこんだりしたい気持ちはわかるんですよ。むしろ十分なくらいに。ただ、なぜそのやりかたなんですか？ と思うんですよね。「負の共感力」を利用する、その手立てが台なしにしている。
以前、なわとび関係でもそれに近いにおいのする発言をいくつか見ました。言葉を変えればまっとうな内容なんでしょうけど、おそらく「手段」としてその言い回しを選んでいるところに、心根が見える。
なわとびの世界から離れはじめたのはそのころだった気がします。
なわとび関係の人と接する中で、ぽつりぽつりと悩ましい話をされることも出てきた時期でした。技が成功しないみたいな話ではなく、「人」がからむ話ばかりでした。
これは自分の甘さもあるんですけど、マイナースポーツというせまい世界で安住していたんでしょう。公園や学校で跳んで、ときどき他の人と練習。でも、マイナースポーツは基本、広がろうとする業界です。いろんな人の１歩踏みだそうとする姿が見えてくるうちに、いろんな向きあいかた、やりかたにふれる可能性があることを、いよいよ肌で感じはじめたのだと思います。
―― もうちょっと違うやりかたがあるんじゃないか。
こんな話もしましたし、思いもしましたが、あくまで一端です。考えの違いなんて溝は、そうそううめられません。そういう状況が見えたときに、昔も今も共通しているのは、距離を置くこと。１つの技でミスが続いたときに、他の技をやってみる心の切りかえにも似ています。
なわとびに限った話ではありませんが、目的よりも手段がぎらついてしまうと、痛々しいというより痛ましい気持ちになります。
「嫌がらせしてきた人間と悪人やで ウチなら口もききとうないな」
「え……？ 今もう 止めてるし
つーか……あれがなりたかった自分じゃないでしょ 今のふたりが本当のふたりなんじゃない？」
―― 嘉村田逸名『ＯＮ ＡＩＲ'Ｓ』 #11 強力と協力 （講談社）
昔、連載で読んだマンガです。（もし検索するなら表紙にはご注意ください。ただし、続きに書きますが、その表紙も引用した理由です）
「嫌がらせしてきた～」と言ってるのはそれをした本人。さらっと笑顔で返す主人公の言葉って、優しさとは裏腹に、けっこうなカウンターだと思うんです。本人は素で言ってるんでしょうけど……。「やりかた」というと、このシーンが浮かぶんですよね。
このマンガ、都合よく進んでしまうところは多いし、単行本の２巻目は電子版のみで、打ち切りに近い評価だったのかもしれません。ただ、投げやりに物語を閉じることはなくて、荒削りでも最後まで描きたいドラマを思いきって描こうとする姿勢が好きでした。
それだけに、単行本の表紙がちょっと過激だったのが悲しい部分でした。ライブ配信の物語なので、そっちに流れたエピソードもたしかにありました。そういう絵を表紙にしてすこしでも売ろうとしたのかな、とも思った覚えがあります。ビジネスだから仕方ない部分はあるのでしょう。
でも、だから、やっぱり ―― もうちょっと違うやりかたが、と思うのです。
